AIに何かを頼むとき、「あなたはプロのウェブライターです。」「あなたは優秀なエンジニアです。」と最初に書くやり方をよく見かけます。プロンプトのコツとして、いろいろな所で勧められている書き方です。
でも、本当に意味があるのでしょうか。僕もよく見かける書き方で、効いているのかが気になっていました。
この記事では、Claudeを作っているAnthropicの公式の手引きと、役割の文の効果を測った研究を読んで確かめたことをまとめます。情報は2026年10月20日時点のものです。
結論:口調と目線は変わるが、正確さや質は上がらない
先に結論を書きます。
- 変わること:口調・書き方・どこに気を配るか
- 変わらないこと:答えの正確さ・文章の質そのもの
- 本当に効くこと:誰が読むか・何のためか・何をしないか・見本、を具体的に書くこと
「あなたはプロの〇〇です」の一文は、まったくの無意味ではありません。ただ、この一文を書いたから答えが賢くなる、というものでもありません。
Anthropicの公式の手引きは「役割で変わるのは振る舞いと口調」と書いている
Anthropicは、Claudeへの頼み方を公式の手引き「プロンプティングのベストプラクティス」にまとめています。その中に、役割について書いた節があります。
その節の書き出しは、次の一文です。
システムプロンプトで役割を設定すると、ユースケースに合わせてClaudeの振る舞いとトーンが絞り込まれます。
続けて、1文だけでも変わる、とも書かれています。
ここで大事なのは、書かれているのが「振る舞い」と「口調」の話だという点です。役割を書くと答えが正確になる、とは書かれていません。
162の役割を試した研究では、正答率は上がらなかった
役割の文が答えの正確さにどう効くかを、まとめて測った研究があります。Mingqian Zhengさんらの論文「When “A Helpful Assistant” Is Not Really Helpful」(2023年に発表・2024年に改訂)です。
この研究では、次の条件で試しています。
- 役割は162種類(6種類の人間関係と、8つの専門分野)
- AIのモデルは4つの系統
- 問題は、答えが1つに決まる2,410問
結果は、役割を付けても、付けない場合と比べて正答率は上がらなかったというものでした。
役割によって正答率が多少変わることはありました。ただ、どの役割が効くかは問題ごとにばらばらで、論文は「役割ごとの効き目はかなりの部分が偶然に左右される」とまとめています。問題ごとに一番良い役割を自動で選ぶ方法も試していますが、でたらめに選ぶのと大差ない結果でした。
なお、試されたのは発表した当時のモデルです。今のClaudeで同じ結果になるかは、この論文からは分かりません。
「プロの」が効かないのは、何がプロなのかが書かれていないから
「プロのウェブライター」と書いても、AIにはどんなプロなのかが分かりません。SEOの記事を書く人なのか、雑誌のコラムを書く人なのか、商品の説明文を書く人なのかで、良い文章はまったく違います。
分からないとき、AIは「プロのウェブライターっぽい文」を想像して書きます。その結果、どこかで見たような、無難な文になりやすくなります。
公式の手引きでも、Claudeを「優秀だけど、あなたのやり方を知らない新入社員」と考えるように勧めています。新入社員に「君はプロだから」と言っても、何を書けばいいかは伝わりません。
役割の代わりに書くと効く4つ
公式の手引きで勧められている書き方をもとに、役割の一文の代わりに書くと効くものを4つにまとめました。
1. 誰が読むのか
読む人が決まると、言葉の難しさや、何を先に書くかが決まります。
例えば「検索から来た、Claudeを使い始めたばかりの人」と書けば、専門用語を減らして、結論を先に書くようになります。
2. 何のための文章か
読んだ人に何をしてほしいのかを書きます。「読んだその場で設定を変えられるように」「買うか迷っている人が決められるように」などです。
3. 何をしないか、と、その理由
してほしくないことは、理由と一緒に書きます。公式の手引きにも、指示の背景や理由を伝えると、Claudeが目的をつかんで、狙いに合った答えを返しやすくなる、と書かれています。
手引きの例は「読み上げソフトで読むので、三点リーダー(…)を使わないで」というものです。ただ「使わないで」と書くより、なぜ困るのかが伝わるので、似た場面でも気を付けてくれるようになります。
4. 見本を1つ
こういう文が良い、という見本を見せます。公式の手引きでは、見本は出力の形式・トーン・構成を導く最も確実な方法の1つとされています。
書き換えた例
同じ頼みを、役割の一文で書いた場合と、4つを書いた場合で並べます。
| 書き方 | |
|---|---|
| 役割の一文だけ | あなたはプロのウェブライターです。Claudeの使い方の記事を書いてください。 |
| 4つを書いた場合 | Claudeを使い始めたばかりで、検索から来た人が読む記事を書いてください。読んだあと、すぐに自分で1回頼んでみられることが目的です。専門用語は、使うならその場で意味を書き添えてください(初めての人は意味が分からないと読むのをやめてしまうため)。見本として、次の段落くらいのやさしさで書いてください。(見本の段落) |
下の書き方には、役割は1つも出てきません。それでも、何を書けばいいかはずっとはっきりしています。
役割が役に立つのは「目線を変えたいとき」
役割の一文がまったく要らないわけではありません。公式の手引きのとおり、役割で変わるのは振る舞いと口調です。なので、目線を変えたいときには使えます。
- 「編集者として、この文章を直して」=直す目線で読む
- 「初めて読む人として、分かりにくい所を挙げて」=つまずく所を探す目線で読む
- 「反対の立場の人として、反論して」=穴を探す目線で読む
この使い方でも、何のために直すのか・誰が読むのかを一緒に書くと、さらに狙いどおりになります。
僕は指示書の先頭に、役割ではなく「何のために作るか」を書いている
僕は、YouTubeの動画の設定や、このブログの記事づくりなどを、補助的にClaude Codeに手伝ってもらっています。Claude Codeには、毎回読み込ませる指示書(CLAUDE.mdというファイル)を置けます。
その指示書の一番上に書いているのは、「あなたはプロの〇〇です」ではありません。「何のために作るか」です。
成果物のクオリティを上げ、ユーザーが見やすく閲覧数も増えるというのが目的。
そのうえで、迷ったら「見る人にとって見やすいか・見たくなるか・質が上がるか」で決めるように書いています。役割を名乗らせるより、目的を書いておく方が、迷ったときの判断の物差しになります。
「あなたはプロの〇〇です」と書きたくなったら、その一文を消して、代わりに「誰が読むのか」と「何のためか」を書いてみてください。
出典
- Anthropic「プロンプティングのベストプラクティス」(Claudeに役割を与える・新入社員のたとえ・指示に理由を添える・見本の効果)
- Mingqian Zhengほか「When “A Helpful Assistant” Is Not Really Helpful: Personas in System Prompts Do Not Improve Performances of Large Language Models」(arXiv)(162の役割・4系統のモデル・2,410問・正答率が上がらなかったこと・効き目が偶然に左右されること)